遺言書の種類(普通方式による遺言)とメリット・デメリット

遺言には、一般的に用いられる普通方式による遺言と、特殊な状況下や緊急時に用いられる特別方式による遺言がありますが、自分はどの方式で遺言書を作成したらよいのか分からないという方も多いかと思います。

特に最近は法務局での自筆証書遺言保管制度が開始されたことから、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらかで迷う方が非常に多くいらっしゃいます。

今回は、遺言書の中でも普通方式によるもの(自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言)について、それぞれのメリット・デメリットを解説しますので、どの方式で遺言書を作成するか決める際の参考にしてください。

1.自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者自身が遺言の内容の全文(財産目録を除く)、日付及び氏名を自書し、押印して作成する方法による遺言です。

1-1.自筆証書遺言のメリット

◎自分一人で作成したいときに作成することができる

証人や公証人といった他者の関与は不要ですので、自分のペースで自由に作成することができます。

◎費用が抑えられる

遺言者が紙に書いて押印するだけですので、費用はかかりません。

なお、法務局での自筆証書遺言保管制度を利用する場合には、保管申請の際の手数料として、遺言書1通につき3900円がかかります。

遺言書の存在・内容を秘密にすることができる

自筆証書遺言による遺言書は自分だけで作成するので、家族や第三者に遺言書の存在・内容を知られずに作成することができます。

1-2.自筆証書遺言のデメリット

全文(財産目録を除く)を手書きする必要がある

遺言者が全文(財産目録を除く)を手書きしなければならないため、手間がかかりますし、書き直しも大変です。

紛失、改ざん、隠匿の恐れがある

作成した遺言書は自分で保管しておく必要があるため、紛失のリスクがあります。

また、遺言書の存在を知っている家族や第三者が勝手に遺言書を破棄してしまったり、内容を書き換えてしまったりする危険性もあります。

なお、このデメリットは法務局での自筆証書遺言保管制度を利用する場合には生じません。

遺言が無効になる恐れがある

遺言者が自分だけで作成した遺言書は、形式的な不備や、内容面での法律上の不備によって無効になってしまう恐れがあります。

法務局での自筆証書遺言保管制度を利用する場合、形式的な不備によって遺言書が無効になることは防ぐことができます。ただし、内容面での法律上の不備については法務局の審査対象外であるため、防ぐことはできません。

遺言書が発見されない恐れがある

家族や第三者に遺言書の存在を知られずに作成できるのはメリットでもありますが、相続開始後にまでその存在を知られなければ、遺言書の意味をなしません。

なお、法務局での自筆証書遺言保管制度を利用する場合には、相続開始後に法務局から遺言書の存在について通知がされるため、発見されないというリスクを防ぐことができます。

検認の手続きが必要

相続開始後に家庭裁判所で検認の手続きを受けなければ、遺言書を各相続手続きで使用することができません。検認手続きには時間も手間もかかるため、大きなデメリットとなります。

なお、このデメリットは法務局での自筆証書遺言保管制度を利用する場合には生じません(検認手続きは不要となります。)。

2.公正証書遺言

公正証書遺言は、遺言者が作成したい遺言の内容を公証人に伝えて、公証人の方で作成する方法による遺言です。

2-1.公正証書遺言のメリット

公証人の方で案文を作成してくれる

法律のプロである公証人が遺言者の希望に沿った内容の案文を作成してくれるため、遺言者の方で難しい内容の文面を考える必要がありません。

また、公証人が作成するものであるため、形式面での不備はもちろん、内容面での法律上の不備も生じません。

紛失、改ざん、隠匿などの心配がない

作成した遺言書の原本は公証役場で保管されるため、紛失、改ざん、隠匿などの心配はありません。

筆記ができなくても作成が可能

公正証書遺言は公証人がパソコンで作成するため、遺言者の手が不自由で文字が書けない場合であっても、作成することができます。

◎検認の手続きが不要

公正証書遺言の作成が終わると、遺言者には公正証書遺言の正本と謄本が交付されますが、相続開始後にはこの正本・謄本を使ってそのまま相続手続きをすることができます。家庭裁判所での検認手続きが不要というのは大きなメリットです。

2-2.公正証書遺言のデメリット

費用がかかる

公正証書遺言のデメリットの一つとして、費用がかさむという点が挙げられます。

最低でも数万円、内容や財産の金額によっては10万円を超えてくることもあります。

作成の手続きが面倒

公正証書遺言の作成は公証役場と何度も打ち合わせをしながら作成するため、時間がかかります。また、公証人の先生の予定が埋まっていて、作成が1か月以上先になることはよくあります。

証人を用意しなければならない 

公正証書遺言を作成する際は、証人2人以上の立会いが必要です。

相続人やその家族などは証人になることができないため、第三者にお願いすることになりますが、快く引き受けてくれる人がいるとは限りません。

どうしても頼める人がいない場合には、公証役場で用意してもらうこともできますが、別途費用が発生してしまいます。

3.秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言者がパソコンなどで作成した遺言書に署名・押印し、封書に入れたものを公証人と証人2人以上の前に提出して作成する遺言です。

3-1.秘密証書遺言のメリット

全文を手書きする必要はない

秘密証書遺言は、パソコンや代筆によっても作成することができるため、手が不自由な方でも利用できます。

遺言の内容を秘密にできる

秘密証書遺言は、公証人と証人の前に遺言書を提出しますが、封をした状態で提出すればよく、遺言書の中身まで見せる必要はありません。そのため、遺言書の内容を知られることなく作成することができます。

遺言書の変造(改ざん)を防止できる

秘密証書遺言は、遺言書を封筒に入れて封印をした状態で保管することになるため、家族や第三者が勝手に遺言書の中身を書き換えたりすることはできません(封がされた秘密証書遺言を勝手に開封してしまうと、秘密証書遺言としては無効となります。)。

3-2.秘密証書遺言のデメリット

紛失、隠匿の恐れがある

秘密証書遺言を家族や第三者が勝手に書き換えることはできませんが、遺言書を保管するのはあくまで遺言者自身であるため、遺言書を紛失してしまったり、盗まれてしまう恐れはあります。

作成の手続きがやや面倒

公正証書遺言ほどではありませんが、秘密証書遺言も公証人や証人の関与が必要となるため、作成手続きがやや面倒です。

費用が若干かかる

秘密証書遺言の作成にあたっては、公証人に対して手数料(1万1000円)を支払う必要があります。また、公正証書遺言と同様に証人を最低2人用意しなければならず、証人の手配を公証役場にお願いする場合にはさらに費用がかかります。

遺言が無効になる恐れがある

秘密証書遺言も自筆証書遺言と同様に、遺言書は遺言者自身で作成します。そのため、作成した遺言書が形式的な不備や、内容面での法律上の不備によって無効になってしまう恐れがあります。

検認の手続きが必要

秘密証書遺言も自筆証書遺言と同様に、相続開始後に家庭裁判所で遺言書の検認を受ける必要があります。

なお、自筆証書遺言の場合は法務局での自筆証書遺言保管制度を利用することによって検認手続きなどのデメリットを解消することができますが、秘密証書遺言には法務局での保管制度はありませんので、デメリットは多いです。

どの方式の遺言にもメリット・デメリットは存在します。

それぞれの遺言についてしっかりと理解した上で、自分にはどの方法がベストなのかを考えることが重要です。

当事務所では遺言書の専門家が親身になってアドバイスさせていただきます。

 

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