相続法改正のポイント-遺産分割前に遺産が処分された場合について

相続が発生すると、相続財産である預貯金などが遺産分割前に相続人によって使い込まれるケースが少なくありません。

このような場合、従来の民法では、他の相続人は遺産分割外で不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求をすることによって解決しなければなりませんでした。

ところが近年の法改正により、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求をすることなく、遺産分割の中で解決することができるようになりました。

ここでは遺産分割前に相続人や第三者によって遺産が勝手に処分された場合の対処方法について、相続の専門家が解説します。

1.遺産分割前に遺産が処分された場合とは

今回の民法(相続法)の改正では、「遺産分割前に遺産が処分された場合」についての取り扱いが変更されました。

そもそも「遺産分割前に遺産が処分された」とはどういった状況なのか、理解しましょう。

例えば、父親が亡くなり、相続人が妻と2人の子(長男・長女)だったとしましょう。相続財産としてA銀行a支店に1500万円の普通預金があります。

この事例で、父親と同居をしていた長男が、父親名義の預金口座のキャッシュカードを管理していたのをいいことに、遺産分割協議をする前に勝手にその預金口座から500万円を引き出し、使い込んでしまいました(被相続人名義の預金口座でも、凍結される前であれば自由に引き出しができてしまいます。)。

これが「遺産分割前に遺産が処分された場合」の典型例です。

2.従来の民法の考え方

従来の民法では、遺産分割前に処分された相続財産は「遺産分割の対象にならない」と考えられていました。

遺産分割の対象になるのは「遺産分割の時に存在する相続財産」と理解されていたためです。

この考え方によると、上記の事例で長男が勝手に引き出して使い込んでしまった500万円については、原則として遺産分割の対象とはなりません。

こうなると、配偶者や長女は、長男に対して不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求を行うことになりますが、このような場合に長男が任意で支払ってくれるとは考えにくいので、通常は民事訴訟となります。

民事訴訟は訴える側にとっても時間や労力、費用がかかってしまうことから大きな負担になります。

3.法改正後の取り扱い

以上のような不都合があったため、今回の法改正により一定の条件を満たせば、使い込まれた遺産であっても遺産分割の対象に含めることができるものとされました。

従来も、実務上相続人(使い込んだ相続人を含む)全員が合意をすれば、使い込まれた遺産を遺産分割の対象にすることができるとする取り扱いがされていましたが、使い込んだ相続人本人がこれに同意しないことも多く、実際に遺産分割の対象にすることは非常に困難でした。

これに対して、改正法の施行後は、使い込んだ相続人の同意がなくても、他の相続人全員の同意があれば、使い込まれた遺産を遺産分割の対象にすることができるというように変更されています。

上記事例の場合、被相続人の妻と長女は、長男が使い込んだ500万円を相続財産とみなして、1500万円の預金があることを前提に遺産分割をすることができます。

また、長男が遺産分割に応じない場合には家庭裁判所に遺産分割の審判や調停を申し立てることになりますが、審判や調停において長男が使い込んでしまった500万円の清算ができるため、別途不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求の民事訴訟を提起する必要はありません。

なお、各相続人は遺産分割前であっても、単独で預貯金の払い戻しを請求することができますが、請求できる金額には以下のとおり限度があります。

相続開始時の預貯金額×1/3×払い戻しを請求する相続人の法定相続分

※ただし、同一の金融機関(複数支店がある場合にはその全支店)から払い戻しができる金額の上限が150万円となります。

しかも、この払い戻し制度は相続人として金融機関で手続きをして受け取るものであり、被相続人名義のキャッシュカードを使用して預貯金を引き出すものではありません。

被相続人名義のキャッシュカードを使用して預貯金を引き出すことは、他の相続人とのトラブルの原因となりますので、避けるようにしましょう。

 

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