親が高齢になってきたとき、子どもの立場としては、親の介護の問題や体調の問題だけではなく、親の財産管理についても心配になるでしょう。
認知症などにより判断能力が低下すると、 悪質な業者にお金や資産を騙し取られる危険性がありますし、財産が散逸してしまって相続開始後に相続人が困るケースも少なくありません。
将来の財産管理や相続が不安になってきたら、家族信託を活用しましょう。
今回は老後の財産管理や相続対策に家族信託を活用する方法を解説します。
このページの目次
1.老後の財産管理に家族信託を活用
年老いてくると自分だけで財産を適切に管理するのは難しくなってくるものです。
預貯金、株式、不動産、保険など、どこにどのような財産があるのかわからなくなったり、そもそも財産の存在自体を忘れてしまうこともあります。
預貯金のように放置していても価値が変わらないものであればまだ良いですが、株式や不動産などは、放置していると知らぬ間に価値が下落してしまって莫大な損失が発生してしまうケースもあります。
こういったリスクを回避するために、家族信託を利用して子や孫などの若い世代に財産を預けてみましょう。
信頼できる家族に自宅を信託しておけば、受託者の方で自宅の修繕工事やバリアフリー化のためのリフォーム工事などもできるため、高齢者の方も自身の認知機能の低下を心配することなく安心して老後を過ごすことができます。
将来自宅を出て介護施設に入所することになった際に、自宅を売却して介護施設の入所費用を用意してもらうことも可能です。
また、株式や投資信託などの金融資産を信託財産として預けて運用してもらう方法もありますし、賃貸アパートや賃貸マンションの所有者であれば、その賃貸物件を信託することによって、賃貸物件の管理や賃料回収などのやり取りを任せられます。
この場合の株式の配当や賃料収入は委託者本人が受け取る(委託者=受益者)とすることもできますし、それ以外の親族等が受け取る(委託者≠受益者)とすることもできます。
家族信託の契約の効力は、委託者本人が認知症になった後も継続しますし、委託者本人の死亡後も契約の効力を継続させることができるため、判断能力の低下や相続発生によって財産管理がストップすることなく、安定した財産管理を実現することができます。
法定後見制度(成年後見、保佐、補助)との違い
法定後見制度は、認知症などによって既に判断能力が低下してきている方が利用するものです。
一方で家族信託は、本人の判断能力がしっかりしていて、将来判断能力が低下したときに備えて契約するものですので、既に認知症などにより判断能力が低下してきている場合には、利用が難しいこともあるので注意してください。
特に信託契約は、売買契約や賃貸借契約などと比べて内容が複雑ですので、その複雑な内容を理解できる程度の判断能力が必要となってきます。
また、法定後見制度の場合は、裁判所の監督が付くため、後見人等の財産管理・処分の権限がかなり制限されてしまいます。新規の株式投資や不動産投資などはもちろんできませんし、本人が持っている不動産の売却も自由にすることはできません。
これに対して家族信託は、裁判所の監督がなく、契約によって自由に受託者の権限を設定することができるため、柔軟な財産管理が可能です。監督がないと逆に不安だという場合には、信託監督人などを立てることによって、受託者を監督することもできます。
さらに、法定後見制度では、後見人・保佐人・補助人になる人を自由には選べず、家庭裁判所が最終的に決定します。
東京などの都心部においては、不動産などある程度の財産がある場合には司法書士などの専門職が選任されることが通常です。
一度も話したことがないような人が後見人としていきなり現れて、財産を全部持っていかれてしまうので、ご本人も親族の方も抵抗があるでしょう。しかも、一度選任されてしまうと、職務怠慢などの余程の事情がない限り、解任することはできません。
家族信託であれば、受託者を信頼できる親族など自由に選ぶことができますし、解任も制限を設けなければ自由にすることができます。
任意後見制度との違い
任意後見制度の場合は、本人の判断能力がしっかりしているうちに、自分が希望する人を後見人とする契約を締結するので、この点では家族信託と似ています。しかし、任意後見制度では、後見監督人という後見人を監督する立場の人が必ず付きます。後見監督人には通常司法書士などの専門家が就任することになるため、後見監督人を通じて裁判所の監督を受けることになるのです。後見監督人には定期的に報酬を支払わなければなりませんし、自由に解任することもできません。
これに対して、家族信託はこのような監督を受けることなく、契約内容に従って財産管理をすることができます。定期的に専門家に報酬を支払う必要もありません。
このように、法定後見制度、任意後見制度と比較しても家族信託には多くのメリットがあることが分かります。
2.家族信託は相続対策にも有効です
家族信託では、契約の内容として委託者(受益者)が死亡した後の信託財産の承継先についても定めることができるため、遺言の代わりとしても利用することができます。
家族信託は、遺言と違って何世代先までも財産の承継を定めることができるため、将来を見据えた資産承継が可能です。
また、通常の相続であれば、被相続人名義の預貯金口座は凍結され、不動産も凍結(被相続人名義のままでは売却も担保設定もできない)されることになりますが、家族信託では信託財産の形式的な名義人は受託者となっているため、委託者(受益者)が死亡しても預貯金口座や不動産は凍結されることなく、受託者が引き続き管理・運用・処分をすることができます。
家族信託をうまく活用すれば生前の財産管理と相続対策の両方ができて大きなメリットがあります。
当事務所では、家族信託を利用する際の注意点やデメリット、リスクなどもしっかりと説明させていただいた上で、依頼者の方・親族の方が納得できるような家族信託の設計を目指しております。