遺言書というと、財産を誰に相続させるとか、残される家族への想いなどを書くことが多いですが、それ以外にも遺言書で定めることができる事項はいろいろとあります。
ここでは、遺言書で定めることができる事項(遺言書の記載事項)や、各項目の記載例について解説します。
このページの目次
1.相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈など財産の承継に関すること
相続財産の承継に関する事項は、遺言書で最も多く記載される内容です。これを記載するために遺言書を作成する人がほとんどといってもよいぐらいです。
相続分の指定とは、法定相続分とは異なる割合で各相続人の取り分を決めたい場合に記載するものです。
例えば、相続人が妻と子2人(長男・長女)である場合、法定相続分は妻が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1ずつとなりますが、これを全員平等に3分の1ずつとしたい場合、遺言書で相続分の指定をすれば、各相続人の相続分を3分の1ずつとすることができます。
この場合の記載例としては、以下のようになります。
「遺言者は、次のとおり各相続人の相続分を指定する。
妻○○(昭和〇年〇月〇日生) 3分の1
長男○○(昭和〇年〇月〇日生) 3分の1
長女○○(昭和〇年〇月〇日生) 3分の1」
遺産分割方法の指定は、ある財産を相続人うちの一人に相続させるというように、将来相続人間で行う遺産分割の内容についてあらかじめ指定しておく遺言です。例えば、相続人が妻と子2人(長男・長女)である場合において、相続財産である自宅の土地建物を妻に相続させるときの遺言書の記載例は次のようになります。
「遺言者は、遺言者が有する次の不動産を遺言者の妻○○(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
以下不動産の表示」
このような遺言を「相続させる旨の遺言」と言ったりします。
遺贈は、相続財産を相続人とはならない親族や第三者に与える際に利用するものです。相続人に対しても遺贈をすることはできますが、相続人の場合には通常「相続させる旨の遺言」によって財産を承継させます(遺贈にしてしまうと相続手続きが面倒になることがあるため注意が必要です。)。
例えば、お世話になった親戚(相続人ではない)に対して預貯金を遺贈する場合の記載例は以下のようになります(自筆証書遺言の場合)。
「私は、私の所有する別紙1の預貯金を、次の者に遺贈する。
住所 ○○
氏名 ○○
生年月日 昭和〇年〇月〇日」
2.遺言執行者の指定、第三者への指定の委託
遺言執行者の指定も財産承継に関する事項とセットで記載することが多いです。
遺言執行者を指定しておけば、相続手続きを遺言執行者が単独で行うことができたりするため、相続人の負担を減らすことができます。
遺言執行者を指定する場合の記載例は以下のようになります。
「遺言者は、本遺言の遺言執行者として、長男○○を指定する。」
相続人ではなく、司法書士などの専門家を遺言執行者とする場合には、
「遺言者は、本遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
住所 ○○
職業 司法書士
氏名 ○○
生年月日 昭和〇年〇月〇日」
のように記載します。
3.遺産分割の禁止(5年以内)
遺言者は、遺言によって相続開始時から5年を超えない範囲で、遺産の全部又は一部について相続人間の遺産分割を禁じることができます。
これは、例えば相続人の中に未成年者がいて遺産分割をスムーズ進めることができないと予測されるときに、成人するまでは遺産分割を禁止するといった場合などに利用されます(未成年者自身は遺産分割協議をすることができないため、家庭裁判所に遺産分割のための特別代理人を選任してもらう必要があります。)。
この場合の遺言書の記載例は以下のとおりです。
「遺言者は、遺言者の二男○○(平成〇年〇月〇日生)が成人するまで、遺言者が所有するすべての財産について遺産の分割を禁ずる。」
4.推定相続人の廃除、廃除の取り消し
推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者)の廃除とは、被相続人に対して虐待などの行為をした推定相続人の相続権を剥奪する制度です。
推定相続人の廃除は、生前に家庭裁判所に対して審判を申し立てることによっても可能ですが、遺言書に推定相続人の廃除を記載することもできます。
この場合には、相続開始後に遺言執行者が推定相続人の廃除を家庭裁判所に申し立てることになります。
なお、遺言書で遺言執行者を定めていない場合には、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらいます。
5.信託
家族信託は生前に契約という形で設定することが多いですが、遺言によってもすることができます。
これを遺言信託もしくは遺言による信託といいますが、信託銀行などが提供しているサービスである遺言信託とは別物です。
また、遺言代用信託は遺言ではなく契約による信託で、その内容が遺言と同じような効果をもたらすものをいいます。
遺言信託、遺言による信託、遺言代用信託は紛らわしい用語ですので、その違いをしっかり理解しておくようにしましょう。
6.特別受益の持ち戻しの免除
相続人が被相続人から遺贈を受けたり、婚姻費用や生活費として生前に贈与を受けていた場合、相続人間の公平のため、それらの財産も相続財産として加えた上で各相続人の相続分を決定することとなっています。
これを「特別受益の持ち戻し」といいます。
もっとも、被相続人が遺言で「特別受益の持ち戻し」はしないとの意思表示をした場合には、その意思が優先されます。
なお、被相続人が20年以上連れ添った配偶者に対して自宅の土地や建物を贈与・遺贈していたときは、被相続人は「特別受益の持ち戻し」をしない旨の意思表示をしたものと推定されます(民法第903条第4項)。
7.祭祀主宰者の指定
祭祀主宰者とは、葬儀や法事などを執り行う人のことをいい、お墓や仏壇などの祭祀財産は相続人ではなく祭祀主宰者が承継することになります(もちろん相続人が祭祀主宰者になることもできます。)。
この祭祀主宰者は生前に指定することもできますし、遺言によっても指定することができます。
遺言によって祭祀主宰者を指定する場合の遺言書記載例は次のとおりです。
「遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、長男○○を指定する。」
8.認知
認知は法律上の親子関係(主に父子関係)を形成するためのもので、生前に役所に認知届を提出する方法によることが多いですが、遺言によってもすることができます(遺言認知)。
遺言認知をする場合には、推定相続人の廃除と同様、相続開始後に遺言執行者が役所に対して認知届を提出することになります(遺言執行者就任の日から10日以内)。
なお、遺言書で遺言執行者を定めていない場合には、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらいます。
9.配偶者居住権の設定
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、相続財産である自宅建物に無償で住み続けることができる権利です。
配偶者居住権は相続開始後に相続人間の遺産分割によって配偶者に取得させることもできますが、遺言書に記載して遺贈の目的とすることもできます。
遺言書に記載する場合の記載例は次のとおりです。
「遺言者は、遺言者の有する次の建物についての配偶者居住権を、遺言者の妻○○(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する」
配偶者居住権の遺贈の相手方は相続人である配偶者ですが、ここでは「相続させる」ではなく、「遺贈する」としましょう。
10.未成年後見人、未成年後見監督人の指定
未成年後見人とは、未成年者に対して親権を行う者がいない場合、または、親権者がいても、その者が未成年者の財産管理権を有しない場合に、未成年者に代わって契約締結などの法律行為を行う者のことをいいます。
未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で未成年後見人を指定することができるとされており(民法第839条第1項)、また、未成年後見人の職務を監督する未成年後見監督人も併せて指定することができます。
遺言書で未成年後見人、未成年後見監督人を指定する場合には、以下の記載例のようにします。
「遺言者は、未成年者である○○(平成〇年〇月〇日生)の未成年後見人として、次の者を指定する。
住所 ○○
職業 ○○
氏名 ○○
生年月日 昭和〇年〇月〇日」
「遺言者は、未成年者である○○(平成〇年〇月〇日生)の未成年後見監督人として、次の者を指定する。
住所 ○○
職業 ○○
氏名 ○○
生年月日 昭和〇年〇月〇日」
通常遺言書の作成と言ったら
- 相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈など財産の承継に関すること
- 遺言執行者の指定、第三者への指定の委託
について記載することが多いかと思います。
①の財産の承継については、家族信託と異なり、次の世代への承継しか定めることはできません(家族信託の場合には何世代先の財産承継も信託契約で定めることができます。)。
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