相続が発生した場合に行う不動産の名義変更の登記を総称して相続登記(広義の相続登記)と呼ぶことがありますが、この相続登記には、「相続」を原因とする所有権移転登記だけでなく、様々な種類の登記が存在します。
以下、相続登記にはどのようなものがあるのか、相続登記の種類についてみていきましょう。
このページの目次
1.相続による所有権移転登記
相続が発生した際に最も多く行われている登記が「相続」を原因とする所有権移転登記です。
登記原因を「相続」として、不動産の「所有権」もしくは共有「持分」を移転する登記のことをいいますが、この登記だけを特に相続登記を呼ぶこともあります(狭義の相続登記)。
相続による所有権移転登記は、次のような場合に行われます。
◎相続人が一人しかいない場合
相続人が一人だけしかいない場合、特に遺言書が残されていなければ、相続財産はすべてその相続人が相続することになります(相続放棄をした場合は別)。
被相続人名義の不動産についてもその相続人が単独相続することになり、この場合には「相続」を原因とするその相続人への所有権移転登記を行います。
◎複数の相続人が法定相続分・指定相続分で不動産を相続する場合
相続人が複数いる場合に、民法に規定されている法定相続分どおりに不動産を共同で相続することとなったときは、「相続」を原因とする所有権移転登記によって相続人全員の共有名義にします。
また、遺言で各相続人の相続分の指定があった場合には、その指定相続分どおりの割合で「相続」を原因とする所有権移転登記をすることができます。
◎遺産分割で相続人の一部が不動産を相続する場合
共同相続人間で遺産分割がされ、一部の相続人が不動産を相続することとなった場合、法定相続分・指定相続分による相続登記を入れる前であれば、「相続」を原因として、不動産を取得する相続人名義への所有権移転登記をすることができます。
なお、先に法定相続分・指定相続分による相続登記をしていた場合には、後述する遺産分割による所有権(持分)移転登記によって不動産取得者に持分を移転することになります。
◎相続分の譲渡によって相続分に変動があった場合
法定相続分・指定相続分による相続登記を入れる前に、相続人の一部が自己の相続分を他の相続人に譲渡(売却もしくは贈与)した場合、相続分を譲渡した相続人以外の相続人は、「相続」を原因とする所有権移転登記をすることができます。
例えば、相続人がA、B及びCの3名で、法定相続分がそれぞれ3分の1ずつであった場合において、BがCに対して自己の相続分を譲渡したときは、A及びCは、「相続」を原因とするA及びCの共有名義(A持分3分の1、C持分3分の2)の所有権移転登記をすることができます。
なお、相続分の譲渡は、相続人以外の第三者に対してもすることができますが、相続人の一部が自己の相続分を他の相続人以外の第三者に譲渡した場合には、当該第三者への「相続」を原因とする所有権移転登記をすることはできません(第三者は相続人ではないため。)。
◎相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)で不動産を相続する場合
ある特定の財産を相続人の一人又は数人に相続させるという内容の遺言を「相続させる旨の遺言」といったりしますが(民法上は「特定財産承継遺言」と規定されています。)、このような内容の遺言によって、特定の不動産を相続人の一人又は数人が相続することとなった場合には、当該相続人は、「相続」を原因とする所有権移転登記によって、自己の単独名義もしくは共有名義にすることができます。
◎相続人全員に対する包括遺贈があった場合
包括遺贈は、相続財産の全部又は一定の割合(例えば、全財産の3分の1など)について包括的に承継させるものですが、次の場合のように相続人全員に対して包括遺贈があったときは、「相続」を原因とする所有権移転登記をすることができます。
①相続人が一人であり、その相続人に全財産を「遺贈する」という内容の遺言書があった場合
→単独相続の場合と変わらない
②相続人が複数であり、その全員に対して「全財産を~に5分の1、~に5分の2、~に5分の2の割合でそれぞれ遺贈する。」という内容の遺言書があった場合
→実質的に相続分の指定と変わらない
2.遺贈による所有権移転登記
遺贈による所有権移転登記は、登記原因が「相続」ではなく「遺贈」となります。 遺贈による所有権移転登記が行われる場合は次のとおりです。
◎遺言で相続人以外の第三者に不動産を承継させる場合
遺言で相続人以外の第三者に対して財産を承継させたい場合には、遺言書には「~に相続させる」ではなく、「~に遺贈する」と記載します。
そして、相続不動産を相続人ではない第三者の名義にするために「相続」を原因とする所有権移転登記を行うことはできませんので、遺贈の相手方が第三者である場合には、登記原因は必ず「遺贈」となります(特定遺贈・包括遺贈問わない)。
◎遺言で相続人に対して不動産を承継させる場合
遺言で相続人に財産を承継させる場合には、「~に相続させる」という内容の遺言書を作成することが多いですが、「~に遺贈する」という内容の遺言書であっても有効です。
遺言書の文言が「~に遺贈する」という内容になっているのであれば、相続人に対する所有権移転登記の登記原因は、原則として「相続」ではなく、「遺贈」となります。
ただし、前述のとおり相続人全員に対する包括遺贈があった場合には、遺言書の文言が「~に遺贈する」となっていても登記原因は「相続」となります。
3.遺産分割による所有権(持分)移転登記
法定相続分もしくは指定相続分による相続登記がされた後に、相続人間で遺産分割がされ、一部の相続人が不動産を取得することとなった場合、「遺産分割」を原因として不動産を取得する相続人への所有権(持分)移転登記を申請することになります。
また、包括遺贈によって複数人(相続人であるか否かを問わない)の共有状態の登記がされた後、包括受遺者間で遺産分割がされ共有持分の移動があった場合にも、「遺産分割」を原因とする所有権(持分)移転登記を行います。
4.その他相続が発生した場合に必要となり得る登記
上記の他にも、不動産の登記名義人が死亡した場合には、以下の登記が必要となる場合があります。
○抵当権者・根抵当権者や賃借権・地上権などの用益権者が死亡した場合の「相続」を原因とする抵当権・用益権移転の登記
○抵当権・根抵当権の債務者が死亡した場合に行う債務者変更の登記
○法定相続分・指定相続分による共有の登記がされた後に相続分の譲渡があった場合の「相続分の売買」もしくは「相続分の贈与」を原因とする所有権(持分)移転登記
○相続や遺贈による登記がされた後に遺留分減殺請求があった場合の「遺留分減殺」を原因とする所有権(持分)移転登記
※なお、民法改正後の遺留分侵害額請求権は金銭請求のため、遺留分侵害額請求権が行使された場合であっても、不動産登記手続きは発生しません。
○死亡した人の相続人がいることが明らかでない場合に行う「相続人不存在」を原因とする所有権登記名義人氏名変更登記
○相続の開始及び自己が相続人である旨を申し出ることによって行う相続人申告登記
5.相続登記は司法書士にご相談ください
相続登記にも様々な種類があることから、自分たちがどのような手続きを行えばよいのか迷うこともあるかと思います。
間違った登記をしてしまうと登録免許税を無駄にしてしまうこともあるため、手続きに迷ったら相続登記の専門家である司法書士に相談するようにしましょう。