人が亡くなった後の相続手続きには様々なものがありますが、特に期限が設けられている相続手続きには注意が必要です。
ここでは、期限が設けられている各相続手続きや、期限内に手続きができなかった場合のデメリット等について解説します。
このページの目次
1.期限がある相続手続き一覧
相続手続きの中でも期限が設けられているものは以下のとおりです。
なお、期限の計算はすべて初日不算入となります。
1-1.死亡届・死亡診断書の提出
死亡届の提出は戸籍法上、死亡の事実を知った日から7日以内にしなければならないとされています(国外で死亡した場合には、死亡の事実を知った日から3ヵ月以内)。
死亡届を提出する際には、死亡診断書も併せて提出する必要がありますが、通常は死亡届と死亡診断書が1枚の紙になっているため、医師に死亡診断書の部分を記入してもらい、相続人等の親族が死亡届の部分を記入して役所に提出することになります。
1-2.年金受給権者死亡届の提出
国民年金や厚生年金の受給権者が死亡した時は、年金事務所もしくは年金相談センターに年金受給権者死亡届を提出しなければなりません。
この死亡届の提出は、国民年金の場合には死亡の日から14日以内、厚生年金の場合には死亡の日から10日以内にする必要があります(それぞれ根拠は国民年金法施行規則・厚生年金保険法施行規則です。)。
1-3.世帯主変更届の提出・被保険者証の返却
住民票上の世帯主が死亡した場合には、市区町村に世帯主変更届の提出が必要になることがあります。
住民票上、死亡した世帯主以外に15歳以上の人が2人以上いる場合には、そのうちの誰を世帯主にするかを決めなければならないため、世帯主変更届の提出が必要になります。15歳以上の人が1人だけの場合には、その人が自動的に世帯主となるため、世帯主変更届の提出は不要です。
世帯主変更届の提出は、住民基本台帳法上、死亡の日から14日以内にしなければならないとされています。
また、国民健康保険や介護保険の被保険者証についても、法令上死亡の日から14日以内に市区町村に返却しなければならないとされていますが、国民健康保険の被保険者証は葬祭費の請求の際に提出するため、実際に返却するのは葬祭費の請求時になることが多いです。
1-4.相続放棄・限定承認
相続人としての地位を放棄するための相続放棄の手続きは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に対して申述をします。
また、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の負債等のマイナス財産を引き継ぐことになる限定承認についても、相続放棄と同じく自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内という期間制限があります。
1-5.準確定申告・所得税の納付
被相続人が生前に確定申告をしていた場合、死亡年度の確定申告は相続人が代わりに行うことになります(準確定申告)。
通常の確定申告は翌年の2月16日から3月15日の間に行いますが、準確定申告については相続の開始があったことを知った日から4か月以内にしなければならないとされているため、注意が必要です。
例えば、被相続人が2021年1月25日に死亡して相続人が同日にその死亡を知った場合、相続人は、2020年1月1日から2020年12月31日までの分(前年度分)と、2021年1月1日から2021年1月25日までの分(本年度分)を併せて2021年5月25日までに申告しなければなりません。
また、納付すべき所得税がある場合には、同じく4か月以内に納付をする必要があります。
逆に被相続人が所得税を多く納めすぎていた場合には、準確定申告によって税金の還付を受けることができます。
この場合の還付金(元本)は相続財産ですので、相続税の対象となります。
一方、還付金に付いた利息である還付加算金については相続税ではなく、相続人の所得税(雑所得)の対象となります。
1-6.相続税の申告・納税
相続手続きの中でも最も期限に注意が必要なのが相続税の申告・納税です。
相続税の申告・納税は相続の開始があったことを知った日から10か月以内にしなければなりません。
葬儀や四十九日が終わって相続財産の調査や相続人同士での話し合い・遺産分割などを行っていたら10か月の期限はあっという間に来てしまいます。
相続人間での遺産分割がまとまらない場合であっても期限の延長はできないため、一旦は法定相続分割合で相続したものとして申告・納税し、遺産分割協議終了後に修正申告(相続税額が多くなった場合)又は更正の請求(相続税額が少なくなった場合)を行うことになります。
なお、更正の請求をして納めすぎた相続税の還付を受けようとする場合には、遺産分割があった日から4か月以内という期限があるため、注意が必要です。
1-7.遺留分侵害額請求権の行使
令和元年7月1日の民法改正により、遺留分減殺請求権は遺留分侵害額請求権へと変わりました。
この改正によって遺留分権利者(遺留分を請求することができる相続人)は、遺留分侵害額に相当する「金銭の支払」のみを請求することができるとされましたが、請求可能な期間は遺留分減殺請求権と基本的には同じです。
すなわち、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。
また、相続開始の時から10年を経過した場合にも、遺留分侵害額請求権は消滅します。
なお、この10年の期間は時効ではなく除斥期間と解されているため、時効のように中断することはできず、10年を経過すれば当然に遺留分侵害額請求権が消滅することになります。
1-8.国民年金の死亡一時金の請求
自営業者など国民健康保険の第1号被保険者が一定期間(原則36月以上)保険料を納めていたにもかかわらず、老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取らないまま死亡してしまった場合、生計を同じくしていた配偶者等の親族は、死亡一時金を受け取ることができます。
この死亡一時金は、第1号被保険者の死亡の日から2年で消滅時効にかかってしまいます。
1-9.健康保険加入者の葬儀費用の請求
加入していた健康保険の種類を問わず、亡くなった方の葬儀を行った人は、市区町村(国民健康保険の場合)や健康保険組合(会社の健康保険の場合)、共済組合(公務員の健康保険の場合)に対して、一定金額の給付(数万円程度)を請求することができます。
加入していた健康保険や請求者によって葬祭費・埋葬料・埋葬費と呼び名は異なりますが、請求期間は、葬儀を行った日から2年以内(葬祭費・埋葬費の場合)、もしくは被保険者の死亡の日から2年以内(埋葬料の場合)となっています。
1-10.生命保険金(死亡保険金)の請求
生命保険金(死亡保険金)の受取人として指定されている人は、被保険者の死亡の日から3年以内であれば生命保険金(死亡保険金)を受け取ることができます。
なお、かんぽ生命の場合には、請求期間は被保険者の死亡の日から5年以内とされています
→生命保険(死亡保険)の手続きについて詳しく知りたい方はこちら
1-11.遺族基礎年金・遺族厚生年金・寡婦年金の請求
国民年金加入者の遺族に対して支給される遺族基礎年金や、厚生年金加入者の遺族に対して支給される遺族厚生年金は、権利発生時(支給事由が生じた日)から5年で消滅時効にかかります。
また、寡婦年金は、夫に生計維持されていた妻が60歳から65歳までの間に受けることができるものですが、60歳から65歳までの5年間しか受け取ることができないため、妻が65歳になった時点で受給資格は消滅します。
1-12.相続登記の申請
令和6年4月28日までに相続登記義務化に関する改正法が施行されることが決まりましたが、相続登記義務化が実施されると、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、相続不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記(相続等による所有権移転登記)の申請もしくは相続人である旨の申出(相続人申告登記の申請)をしなければなりません。
2.期限を過ぎてしまった場合
各相続手続きの期限を守らなかった場合にどのようなデメリットが生じるのかについては、相続手続きごとに異なってきます。
2-1.期限を過ぎた場合のデメリットが大きいもの
上記の各相続手続きの中でも、期限内に手続きができなかった場合のデメリットが大きいものは以下のようになります。
◎相続放棄・限定承認
◎準確定申告・所得税の納付
◎相続税の申告・納税
◎遺留分侵害額請求権の行使
相続放棄と限定承認は家庭裁判所に申し立てをする必要があるため、期限を過ぎてしまった場合には原則として受理してもらえなくなります。
3か月の期限経過後であっても受理してもらえることがありますが、それなりの理由が必要です。
準確定申告・所得税の納付と相続税の申告・納付は、期限を過ぎてしまうと無申告加算税や延滞税といったペナルティーが発生し、税額が本来納める金額よりも高額になってしまうため、必ず期限内に申告・納税をするようにしましょう。
遺留分侵害額請求権については、期限が過ぎてしまえば相手方に請求することはできなくなってしまいます。
相続財産の額によっては遺留分侵害額が高額になることもあるため、期限経過によるデメリットは大きいといえるでしょう。
2-2.その他の相続手続きについて
死亡届・死亡診断書の提出が遅れた場合には過料に処される旨の規定がありますが、悪質なものでない限り実際に過料に処されることはないでしょうし、最近は葬儀会社が代行してくれることが多いため、遅れる心配はあまりありません。
年金受給権者死亡届の提出が遅れると、死亡後にも年金が被相続人の口座に振り込まれることがあります(過払い年金)。
過払い年金が生じると、返納手続きが必要となります。
世帯主変更届の提出・被保険者証の返却についてもそこまで厳格に期限遵守が求められてはいません。
死亡一時金や葬儀費用、生命保険金(死亡保険金)、遺族年金の請求については、多少の期限経過後であれば、請求が認められる場合が多いです。
相続登記義務に違反した場合にも過料に処されることになっていますが、会社・法人登記義務違反の例を考えると、少し登記が遅れたからといって、直ちに過料に処されるものではないと思われます。
3.まとめ
以上のとおり、相続手続きにおける期限は短いものから長いものまで様々ですし、手続きを怠った場合のデメリットもそれぞれ異なります。
相続が発生した場合には、相続手続き全体のスケジュールを把握した上で、期限が近いもの・期限経過によるデメリットが大きいものから順に手続きをしていくのが良いでしょう。
手続きが面倒だという方は、司法書士などの専門家に丸投げすることも可能です。
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