相続が発生して相続人の中に未成年者がいる場合、相続手続きがスムーズにいかないことがあります。
特に被相続人が遺言書を遺していない場合には、原則として相続人全員が相続手続きに関与する必要があるため、相続人に未成年者がいると手続きがスムーズにいかないことが多いです。
ここでは、相続人の中に未成年者がいる場合の問題点や注意点について解説します。
このページの目次
1.未成年者とは
未成年者といっても、ここで問題となってくるのは 民法上の未成年者です。
民法上の未成年者とは、20歳未満の人のことをいい、未成年者は制限行為能力者(民法上行為能力を制限された者のことをいい、未成年者のほかに成年被後見人・被保佐人・被補助人がいます。)であるため、契約締結などの法律行為をするにあたって一定の制限があります。
例外的に20歳未満の人であっても、婚姻をした場合には成年に達したものとみなされます(婚姻による成年擬制)。
なお、民法の改正により、2022年4月1日からは成人年齢が18歳に引き下げられ、婚姻による成年擬制はなくなります。
そのため、2022年4月1日以降は18歳未満の相続人がいる場合に問題となります。
2.相続人に未成年者がいる場合の問題 点・注意点
相続人の中に未成年者がいる場合にはどのような問題点・注意点があるのか、具体的にみていきましょう。
2-1.未成年者は単独で遺産分割協議に参加することができない
遺言書がない状態で、相続人間で遺産を分配するためには遺産分割協議をする必要がありますが、この遺産分割協議も「法律行為」に当たります。
そのため、相続人に未成年者がいる場合には、その未成年者が単独で遺産分割協議に参加することはできず、後述する法定代理人や特別代理人が未成年者に代わって遺産分割協議をします。
2-2.預貯金・株式等の各種相続手続きを行う際の問題点・注意点
被相続人名義の預貯金口座がある場合には、銀行や郵便局で預貯金口座の解約・払い戻し、もしくは名義変更の手続きを行う必要がありますが、未成年者の相続人が預貯金を相続する際は、法定代理人か特別代理人が代わりに手続きをするよう銀行や郵便局から求められます。
また、被相続人が証券会社に口座を開いて株式投資や投資信託などを行っていた場合も、証券会社での相続手続きにおいて法定代理人や特別代理人の関与が要求されます。
これに対して、被相続人が生前に所有していた非上場株式については、発行会社によっては、法定代理人の同意があれば、未成年者自身が相続手続きを行うことができる場合もあります。
その他の相続手続きについても、未成年者である相続人の署名や押印が必要な場面では法定代理人や特別代理人の関与が必要になってくることがあるため、事前に手続き先に確認するようにしましょう。
2-3.生命保険金(死亡保険金)の請求手続きを行う際の問題点・注意点
被相続人が生命保険(死亡保険)の被保険者となっている場合、被相続人の死亡によって、生命保険金(死亡保険金)の受取人に指定されている人は、遺産分割を要せずに保険会社に対して生命保険金(死亡保険金)の請求をすることができます。
このとき受取人が未成年者である場合には、法定代理人が未成年者に代わって生命保険金(死亡保険金)の請求手続きを行うことになります。
2-4.相続登記の申請や相続税の申告の際の問題点・注意点
相続財産に不動産があり、その不動産について相続登記を申請する場合にも、相続人に未成年者がいることによって問題が生じることがあります。
登記申請自体は、既に発生した権利変動を公示するためのものであり、「法律行為」とはいえないため、未成年者であっても可能です。
しかし、5歳や6歳の子供など、意思能力(自分の行為の結果、どのようなことが起こるかを弁識する能力)すら十分に備わっていない年齢では、登記申請自体も単独ではすることができません。
また、相続登記の申請を司法書士に依頼する場合、司法書士への委任(代理権授与)も委任契約という法律行為であると考えると、未成年者が単独で司法書士に相続登記の申請を依頼することは難しいと考えられます(そもそも未成年者からの単独の依頼で登記申請を受任する司法書士はほとんどいません。)。
相続税の申告の場面についても相続登記の場合と同様に考えられるため、意思能力が十分でない未成年者の相続税申告は法定代理人が代わりに行うことになります。
3.未成年者の代わりに遺産分割や相続手続きをするのは誰?
未成年者である相続人が各種相続手続きや遺産分割協議を行うことができない場合、代わりに下記の者が代理で手続きを行います。
3-1.法定代理人
法定代理人とは、法律によって代理権が認められた者のことをいいますが、未成年者の場合には通常親権者が法定代理人となります。
親権者は父母の双方もしくは一方がなりますが、未成年者が養子縁組をして養子となっている場合には、養親が親権者となります。
両親の死亡などによって親権者がいなくなってしまった場合には、家庭裁判所で未成年後見人が選任され、以後は未成年後見人が法定代理人として親権者の代わりに未成年者の財産管理や身上監護などを行っていくことになります。
なお、未成年後見人は複数選任されることもありますが、その場合には原則として共同で権限を行使します。
3-2.特別代理人
特別代理人とは、親権者である父又は母とその子との間で利益が相反する行為(利益相反行為)を行う場合などに、家庭裁判所によって選任される臨時の代理人です。
未成年者に親権者がいる場合であっても、利益相反行為をするためには別途特別代理人を選任した上で、その特別代理人が未成年者の代わりに手続きを行う必要があります。
例えば、共同親権者である父母のうち、父が亡くなって母子間で遺産分割協議を行う場合、子の親権者として母が代わりに遺産分割協議を行うとなると、母一人で自由に遺産分割ができてしまうため、未成年者である子の利益が害されるおそれがあります。
この場合には、母は子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならず、家庭裁判所が選任した特別代理人(例えば、父方の親族など)と母との間で遺産分割協議をすることになります。
これが特別代理人の選任が必要な利益相反行為の典型例です。
4.まとめ
相続人の中に未成年者がいる場合には、特別代理人を選任しなければならないことが多く、相続手続きも一筋縄ではいきません。
特別代理人の選任を怠って遺産分割をしてしまうと、遺産分割自体が無効になってしまうこともあり、その後の相続手続きが進まなくなってしまう恐れもあります。
未成年者がいる場合の相続手続きの進め方がよく分からないという方は、司法書士に相談するようにしましょう。