不動産の権利証は、不動産を売却したり、不動産に抵当権を設定する際に使用することが多いですが、売買や抵当権設定の際は司法書士が手続きをすることがほとんどですので、一般の方が権利証を使って手続きをするということは少ないかもしれません。
しかし、権利証が普段使わないものであっても、それがどういったものなのか、どういうときに権利証が必要になるのかを知っておくことは非常に重要です。
ここでは、権利証の概要や登記識別情報通知と登記済証(登記済権利証)との違い、権利証が必要になる登記について解説します。
このページの目次
1.権利証(権利書)とは
不動産の権利証とは、不動産の所有権や抵当権などの権利を取得し登記を申請した者に対し、登記完了後に法務局から交付される書類です。
権利証といっても、不動産について所有権などの権利があることを証明するものではありません。
もっとも、権利取得者しか持ち得ない権利証を所持しているという点で、権利者本人であるという一定程度の推定が生じますので、権利を移転したり、抹消したりする場合の登記申請には、権利証の添付が要求されています。
権利証は、売買などによって不動産の所有権を取得した場合だけでなく、例えば銀行が住宅ローンなどの融資を行い、不動産に抵当権の設定を受けた場合にも、抵当権設定登記完了後に銀行側に権利証が発行されます。
この他にも、賃借権や地上権などの用益権の設定登記を行った場合にも、賃借人や地上権者に権利証が発行されます。
ただ、一般の方が抵当権や地上権などの用益権を取得して登記名義人となることはほとんどないため、通常権利証といえば不動産の所有権に関する権利証を意味します。
なお、人によって「権利証」と言ったり「権利書」と言ったりしますが、どちらも同じ意味です。
謄本(登記事項証明書)と権利証との違いは?
不動産の謄本(登記事項証明書)と権利証は全く別の書類であり、その用途・重要度も異なります。
謄本は、不動産ごとの現在の登記記録の内容を証明した書類で、個々の不動産それ自体の情報(地番や地目、地積など)や、その不動産の権利者(所有者や抵当権者など)に関する情報などが記載されています。
登記申請の際に不動産の謄本を添付することはほとんどなく、登記申請の前に不動産の登記内容を確認したり、登記完了後に申請どおり登記が行われていることを確認するために取得することが多いです。
また、権利証と違って紛失しても再発行が可能であり、手数料さえ支払えば誰でも取得することができるため、権利証のような重要性は全くありません
→謄本と権利証の違いについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
2.不動産の権利証には2種類ある
権利証(権利書)という用語は不動産取引においても一般的に用いられていますが、正確な表現ではありません。
正確には登記識別情報通知もしくは登記済証(登記済権利証)といいます。
登記済証(登記済権利証)は、登記申請書や契約書などに法務局の登記済印が押されたもので、所有権に関する権利証には「登記済権利証」などと記載された表紙がついていることが多いです。
一方、登記識別情報通知は、登記済証(登記済権利証)に替わって発行されるようになったもので、登記識別情報という12桁のアルファベットもしくは数字が記載された紙です。
登記完了後にオンラインで登記識別情報を通知してもらうこともできますが、実際には紙媒体で発行してもらうことがほとんどでしょう。
登記識別情報通知と登記済証(登記済権利証)のどちらになるかは、法務局から発行された時期により異なります。
平成17年から平成20年にかけて順次法務局がオンライン指定庁となり、現在ではすべての法務局がオンライン指定庁ですが、オンライン指定庁となる前に発行されたものについては登記済証(登記済権利証)となります。
3.権利証が必要になる登記手続き
不動産の権利証はすべての登記手続きにおいて添付しなければならないというものではありません。
不動産登記法上は、
①登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合
②その他登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合
に権利証を添付しなければならないとされています。
まず、①登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合ですが、これは所有権や抵当権など権利に関する登記が、権利者(売買の買主など権利を取得する側)と義務者(売買の売主など権利を失う側)の共同申請でなされる場合ことをいいます。
つまり、売買や贈与による所有権移転登記、抵当権設定登記、抵当権抹消登記などの登記を共同申請で行う場合には、権利証の添付が必要となります。
逆に、相続登記(「相続」を原因とする所有権移転登記)、住所変更登記、建物の所有権保存登記など、相続人や所有者が単独で申請する登記については、権利証の添付は原則として不要です。
なお、ここでいう単独申請とは、登記権利者側と登記義務者側が共同して申請するものではないという意味であり、申請人が一人という意味ではありません。
そのため、複数の相続人の共有名義に相続登記をする場合や、夫婦の共有不動産について夫婦が一緒に住所変更登記をする場合は、申請人は複数ですが、共同申請ではなく、単独申請になります。
また、建物の滅失登記や土地の地目変更登記などは「権利に関する登記」ではなく、「表示に関する登記」に該当しますので、権利証の添付は不要です。
次に、②その他登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合ですが、所有権保存登記の抹消や抵当権の順位変更登記、土地の合筆登記や建物の合体登記など、権利に関する共同申請の登記でないにもかかわらず、権利証を添付しなければならない場合の登記が、不動産登記令第8条第1項に個別に列挙されています。
4.まとめ
これまで権利証についてみてきましたが、ポイントは以下のとおりです。
権利証は謄本(登記事項証明書)とは異なるものである
権利証には「登記済権利証」などと記載された冊子タイプのものと、登記識別情報通知という現在のパスワードタイプの2種類が存在する
売買や贈与による所有権移転登記、抵当権抹消登記など共同申請でなされる権利の登記については、権利証が添付書類となる
相続登記や住所変更登記など単独申請でなされる登記や表示に関する登記については、原則として権利証の添付は不要
権利証について分からないことがある場合や、登記申請にあたって権利証の添付が必要かどうか迷った場合には、司法書士までご相談ください。